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Special content
寺西 孝一郎、リーダーに学ぶ
アルピニスト
野口 健
Special contentとは..?
一流のリーダーと語る、組織と人間力の本質。
寺西 孝一郎が、各界のリーダーや先駆者をお招きし、 対談を通じて「信念」「哲学」「人を動かす力」に迫ります。
初回のゲストは、アルピニスト・野口 健氏。 極限を知る男が語るリーダー論には、経営にも通じるヒントが詰まっています。
対談を通して、寺西の考え方、芝電機の姿勢をお伝えするコーナーです。
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世の中は理不尽なことだらけ どう向き合うか、付き合うかが大事
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寺西:野口さんはアルピニストとして山頂を、私もビジネスの世界で山の頂を目指しているのですが、野口さんのように常にそばにシェルパ(伴走者)がいるわけではないんですね。転職してきた立場という事もあり、社員との関係性を築くのに苦労しました。
野口氏:転職で来られた会社だと、最初はアウェイ感があったでしょうね。
寺西:はい。今年で創業83年目の電源一筋のBtoBの会社なので、前の会社の大手電機メーカーとは文化も違って戸惑いもありました。多分、周りからは「突然やってきた奴が」という見方もされていたと思います。ただ、“モノ作り”という共通点があったので何とかやってこられました。
野口氏:僕のメインのシェルパはもう40年近い付き合いです。長く一緒にいると、喧嘩もしますし、「畜生!」と思うこともありますけど、そこを乗り越えた時には、かなり絆が強くなる。特にアタック中は極限状態なので、シェルパとの信頼関係は大きいですね。ただ、シェルパも人間なので相性はいいんだけど高所に弱くて、6千、7千メートルになると吐いちゃう人もいます。そういうシェルパは一緒に山頂に行くには不向きなんだけど、僕は相性を一番大事にしているので彼には野口隊のメインコックとして働いてもらっています。今ではベースキャンプじゃ欠かせない存在になりました。あと相性はいいけど、どうしようもない奴もいます。そういう連中は、しばらく置いておいて様子を見ます。
寺西:置いておく、というのはいいですね。例えば野口さんなら彼等とどう付き合っていきますか?
野口氏:時間にルーズだったり、何でもアバウトだったりする人に最初はカリカリしていました。エベレストで森作りの活動をしていても、5歩進んだと思うと4歩後退して、みたいな感じです。それでも1歩は進んでいますから。
寺西:やはり過度な期待はしちゃいけないですね。私も辞めていく人を何とか引き止めようとした時期もあったんですが、今では、人それぞれの人生ですから、無理に引き留めてもお互いに良くないかなと思うようになりました。それよりも同じ方向を向いてくれる人達を一生懸命導いていきたいですね。
野口氏:その辺の見極めが難しい。急に化ける人もいるんですよ。
寺西:シェルパをないがしろにする登山家もいる中、野口さんの「対等な立場で仕事としてやっていく」という言葉に非常に共感しました。私も様々な要因が重なり、社長という役回りになっただけで、元々経営者になるつもりはなかったんです。
野口氏:肩、凝りますよねえ、社長って(笑)。
寺西:1人では何もできないので、周りに協力してもらいながら様々なことに取り組んでいるところです。
野口氏:ただ、今の世の中コミュニケーションがとりづらい。一昔前みたいに気軽に「飲みに行くか」とは言えなくなりました。
寺西:「残業ですか?」って言われかねない(笑)。
野口氏:うちの事務所はみんな深夜まで酒飲んで議論してるんですけど、ある日、スタッフの1人と飲んでたら若い人が入って来て「この時間に意味ありますか?」と。今は深い話をするのが苦手な若者が結構いるんですよね。その点、体育会系はいいですよ。彼らは理不尽な先輩との力関係の中で、内心、畜生!と思いながらも何とかうまくやっていくじゃないですか。僕は、そういう上下関係の中で揉まれてきたことに意味があると思うんです。だって、世の中は理不尽なことだらけでしょ。
寺西:今は、手厚い加護の中で育った若者も多く、世の中に出た途端、潰されかねない。だからこそ、どう向き合うか、付き合うかが大事。
野口氏:その通りだと思います。
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失敗体験ならいくらでも話せます 人生トータルで51点ならいいんですよ
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寺西:野口さんは、今まで何度も大変な局面を乗り越えてきましたが、逆境の乗り越え方はありますか。
野口氏:学生の頃はスポンサーのワッペンをつけるとプレッシャーを感じてましたね。何が何でも登頂する、失敗は許されないと思って。それは世間体もあれば、人に批判されたくない、テレビ局がお金をかけて同行してるのに申し訳ないという気持ちが強かった。だから、キャンプ地で多少天候が悪くても山頂へのアタックをしてしまいがちなんです。要はイチかバチかに賭けたくなる。しかも、誰か1人が「やっちゃおうぜ」と言うと集団心理で、みんな目をギラギラさせて「行こう!」って雰囲気になるんです。だけど、それが大量遭難に繋がっていくんですよね。
寺西:確かに人は、勢いや、その場の空気で期せずしてそうなりがちですね。
野口氏:人の人生には必ず終わりが来るわけで、晩年、自分の人生を振り返った時にトータルで51点だったら人生はうまくいったんだ、と。そう思えるようになった瞬間、すごくラクになれました。
寺西:49パーセントが失敗でも、そこから学ぶことは多いですものね。
野口氏:そうなんです。よく講演で成功体験を話してほしいと言われますが、10分で終わってしまいます。失敗談だったらいくらでも話せるんですけどね。
寺西:私も失敗したことのほうが覚えています。やはり社員が全員喜ぶような結果というのはなかなかないです。ただ、社員とその家族も背負っていますから、あまり浅はかなことはできないので、できるだけいろいろな情報を集めて考えた上で決断しているつもりです。そして最後は、自分がこうありたいという方向へ持って行くしかないんです。
野口氏:環境保護の取り組みとしてエベレストや富士山の清掃活動をやってきましたが、始めた時はゴミが多いし、人はなかなか集まらなかったので果たしてこれに意味があるんだろうかと思ったんですね。でも、清掃を10年、20年続けていって綺麗になった山を想像してみるんですよ。そんなイメージができれば、大丈夫です。
寺西:野口さんにとって人生で一番影響を受けたのは何ですか。
野口氏:15歳の時に初登頂した八ヶ岳の天狗岳で、これが僕の柱になっています。例えば、30代後半にエベレストで雪崩に巻き込まれて首を痛めて一度山から離れたことがありました。その時はモチベーションは上がらないし、富士山の清掃もイヤになっちゃったんですね。そんな時は、僕の原点でもある八ヶ岳に登った時と同じ宿の同じ部屋に泊まるんです。ゴロンと寝転がって見た天井も、宿の親父さんもオカミさんもだいぶ年季が入ってるけど変わってない。そうすると、パァーンと15歳の頃の自分に戻れるんですよ。初めて買ったピッケルで初めての雪山に挑戦した時の、あのワクワク感がすぐに蘇って来て再び気分が上がってきます。
寺西:なるほどですね。確かに私にとっても、まだ専門知識があまり無かった頃に、自分なりに勉強した資料や問題を解決できた時の体験は今でも印象深いです。脳裏に焼き付いていて、ふと思い出すことがありますが、もう一度モノ作りに対する当時の高揚感を呼び起こされます。
野口氏:そういう意味では、若い社員の方たちに先輩たちがもっとモノ作りの夢を語っていくのは大事だと思います。
寺西:特に工場の人達は一生懸命生産業務に取り組んでくれているんですが、その製品がどこでどう役立っているのかの情報を共有しきれていません。今後、世の中でどう役立っているかをもっと伝え、仕事に誇りを感じてもらえるようにしていけたらと思っています。
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世の中には必ずA面とB面がある 世界中のB面を見るようにと教わった
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野口氏:小学校3年から6年まで外交官だった親父の赴任先のエジプトで暮らしたんですけど、海外は家族を職場に連れて行くことも多いんですよ。親父はODA(政府開発援助)の仕事をしていて、どんな援助がその国に一番必要かを見極めるためにいろんな場所に行くんです。例えば、スラム街を回った時は、親父から「おまえはどう思う?」と聞かれるんです。「う~ん」と言ったまま答えないでいると「つまらん男だな」って(笑)。イエメンの野戦病院に行った時なんか廊下には瀕死の人が溢れていて、子供ながら「どうすればいいんだろう」と考えさせられました。
寺西:日本では家族が職場体験をする機会はあまりないですね。自分の親はこういう工場でモノ作りをしているんだという、いわゆるファミリーデーみたいなものはちょっと考えてみてもいいかもしれません。ほかにお父様からの教えみたいなものはありますか。
野口氏:親父はよく「世の中には必ずA面とB面がある」と言ってました。例えば、エジプト。たくさんの観光客がいるピラミッドがA面だとしたら、すぐ傍のスラム街はB面だというわけです。「B面は自分から行かないと見えてこない。世界中のB面を見るようにしろ」と。あれは教えというより洗脳で、植え付けられましたね。
寺西:そういう意味では、富士山の清掃もB面ですね。
野口氏:そうです。小学校6年生の時に母ちゃんが家を出て行ったので、親父と2人の生活になったんですよ。エリート意識の強かった親父にとって離婚は初めての挫折だったから、毎晩酔っぱらって帰ってくるわけです。2階の僕の部屋に入って来て「寝てるか」と言うから「寝てるよ」と答えると「そうか」ってトントンと階段を下りていくんですね。そんな元気のない親父に親近感を覚えて、そこから一気に会話が増えました。女房と母ちゃんに捨てられた者同士、親子というより戦友って感じでした。
寺西:素敵な親子関係ですね。うちの父は当時の仕事の関係上、私が朝学校へ行く時はまだ寝ていて、夜遅く帰って来るので子どもの頃はあまり接点がなかったんです。でも、10歳の時に父がこの会社に入ってからはだいぶ親子の時間が取れるようになりました。父からの教えというほど大そうなものではないですが、「言い訳をするな」とはよく言われました。言い訳は逃げる事につながります。言い訳をせず結果ときちんと向き合うことが大切だと今更ながら痛感してます。
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10個提案して1つ実現するなんて すごいことじゃないですか
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寺西:社員をどう育てていけばいいのか、是非お聞きしたいです。
野口氏:場数を踏ませることです。いろんなことをやらせて、失敗しても俺が責任を取るというのが理想です。僕は石原慎太郎さんが都知事だった時にお世話になったんですけど、慎太郎さんは表向きは「役人はバカだ」とか言ってましたよね。だけど、若い職員たちをかなりかわいがっていましたよ。知事室は常にオープンで、「何かいいアイデアがあったら俺の所に持って来い。最後は俺が何とかする」と。若い人たちもいろんな提案を持っていきやすかったらしく、知事と対等に話もしてました。
寺西:野口さんも石原さんに提案をなさったのですか。
野口氏:例えば「東京都レンジャー作りませんか」とか提案すると、「面白れえな」と言って、次の記者会見で発表するんです。そんな風通しのいい雰囲気作りは大事だと思います。
寺西:たとえ失敗しても経験にはなりますものね。
野口氏:そうです。ただ、日本人は真面目だから失敗するのが怖くてなかなか提案できない。でも、10個提案して1つ実現するなんてすごいことじゃないですか。だから、社員にドンドン提案させてうまくいった時は褒める。うまくいかなかった時は俺が責任を取るという雰囲気の組織作りをお勧めします。そんな会社は社員がみんな生き生きしていますよ。
寺西:確かに自分の考えを提案してくれる社員がたくさんいる会社は伸びると思います。失敗を恐れるなということを社員に伝えたいですね。前向きで常に新しい考えに満ちた会社にしていきたいです。本日はありがとうございました。会社経営のヒントをたくさんいただきました。今後もお互い切磋琢磨して日本のために、世界のために、価値創造して未来に繋いでいきましょう。
対談日:2025年6月17日(火)
スペシャルコンテンツ対談者
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アルピニスト
野口 健
(のぐち けん)
アルピニスト。1973年8月21日、アメリカ・ボストン生まれ。亜細亜大学卒。 高校時代に植村直己氏の著書『青春を山に賭けて』に感銘を受け、登山を始める。1999年、エベレストの登頂に成功し、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。2000年からはエベレストや富士山に散乱するごみ問題に着目して清掃登山を開始。2007年エベレストを中国側から登頂に成功。近年は清掃活動に加え、地球温暖化による氷河の融解防止にむけた対策、日本兵の遺骨収集活動などにも力を入れている。2015年ネパール大震災の支援をきっかけに、翌年におきた熊本大地震にて避難所としての「テント村」を運営。災害支援活動の経験から災害時における防災などの啓蒙活動にも取り組んでいる。2023年トルコ地震、2024年能登半島地震においても寝袋支援プロジェクトを行い、能登半島には約9500個の寝袋を届けた。現在も輪島市にて野菜を届ける「野菜プロジェクト」を行っている。現在、亜細亜大学特別招聘教授。 主な著書に『落ちこぼれてエベレスト』(集英社)、『震災が起きた後で死なないために』(PHP研究所)、写真集『野口健が見た世界 INTO the WORLD』(集英社インターナショナル)、『登り続ける、ということ』(学研プラス)、娘・絵子との対談本『父子で考えた「自分の道」の見つけ方』(誠文堂新光社)などがある。 公式ウェブサイトは http://www.noguchi-ken.com/
コーディネーター・ライター
大西 展子
(おおにし ひろこ)
大西展子氏は北海道生まれ、早稲田大学卒。女性誌編集者を経てフリーに。 『週刊文春』『週刊現代』『Number』『婦人公論』など多数の雑誌で人物インタビューや企画・編集を手がける。新聞の連載やエッセイ執筆、単行本のプロデュースも行い、多彩な表現活動を展開。著書に『決断の瞬間』『スイスの山の上にユニークな高校がある』『ファミリー』『さくらうさぎ』『天本君、吠える!』などがある。現在も複数の雑誌で執筆を続けている。
【本社】
〒105-0023 東京都港区芝浦1-3-11
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